発達障害と起業

AD/HDの傾向と起業への適性について考える その2 Vol.3

投稿日:2017年6月6日 更新日:

これまでAD/HD傾向の中で、起業に適したいくつかの性質を述べましたが、人には向き・不向きがあるのは当然です。

AD/HDの特性が、自分も含めた皆にとってプラスに働けば長所ですが、逆に周囲とうまくいかなくなる場合は短所となってしまうのです。これが、“勤め人”としては継続が難しい点です。

起業するのか雇われる身になるのか。いずれの場合も“仕事”をすることには変わりありません。自分のどの部分が“仕事”に向いていないのか、逆にどのようなタイプなら“起業”に向いているのか、例を挙げながら考えてみましょう。

遠藤野ゆり准教授
人にはそれぞれ向き不向きがありますので、自分の特性をしっかりつかんでおきましょう。

AD/HDの人が持つ“仕事”に向かない性質

AD/HD傾向の人の中には、時には非常に大きな力を発揮するのですが、普段からそういった力を、上手く発揮できない部分もあります。AD/HDの人が仕事でつまずいてしまうパターンについて見てみましょう。

継続が苦手で仕事にムラがある

AD/HD傾向の人にとって、「継続が苦手」なことは、仕事の面で大きなハードルでしょう。一旦、集中力が切れてしまうと、パフォーマンスがかなり落ちます。これを繰り返すと、AD/HDの人の特徴でもある「作業全般の“ムラ”」を生じます。場合によっては、こうしたムラが一週間、一か月といった中長期的なスパンでも訪れます。

仕事のムラ

例えば、レポートや論文の締め切りが迫っても手を付けないのに、前日になって突然スイッチが入り、たった1日で優れたものを書いてきた大学生がいました。こうした高いパフォーマンスを発揮すると、彼は周りから「期待される」ことになります。しかし、これは「たまたまスイッチが入ったから起きた」ことであり、実際には「めったに発揮されないもの」なのです。スイッチが入った状態は継続できるものではありませんので、周りからの期待に応えることは難しいでしょう。

早起きが苦手

早起き、正確には「毎日」早起きをすることがAD/HD傾向の人は苦手です。「だらしない」「怠けている」と思われがちですが、過集中のときや重大な用件ではちゃんと起きることができます。特に高い能力をもつタイプのAD/HDである場合、寝坊による遅刻は一度もない人は珍しくありません。

過集中に入りやすい時間が夜間であることも、早起きできない要因のひとつです。刺激の多い昼間は不注意に陥りやすいAD/HD傾向の人も、刺激が少ない夜間には仕事がはかどります。ここで過集中すると眠気が吹き飛び、つい明け方まで仕事に没頭する。こうした生活では、どうしても早起きが苦手になります。

早起きが苦手独りで仕事をする分にはよいのですが、組織のトップとして複数の人たちと共に仕事をするとしたら、しばしばこの性質はネックになります。

ルールを守るのが苦手

AD/HDの人がルールを守るのが苦手なのは、不注意と衝動性という2つの性質が関連しています。

  • 不注意:ルールそのものを見落とす
  • 衝動性:見切り発車で悪気なくルールを破ってしまう

という部分です。自分の会社ではある程度自由がきいても、社会のルールには従わなくてはなりません。

ルールを守るのが苦手

特に昨今は、昔よりも「コンプライアンス」が厳しくなっていますので、ルールを守れない人は当然、仕事がやりにくくなるでしょう。

忘れモノが多い

AD/HD傾向の人は、とにかく忘れモノが多いのですが、仕事でもっとも困るのは、「約束を忘れてしまう」ことです。約束を忘れることは、納期に間に合わないよりも深刻です。納期に間に合わないのは、それが分かった時点で手を打つことが出来ますが、約束を忘れる、しかも本来の約束の日時を過ぎてから思い出すのは、最悪です。「自分との関係を軽視している」と思われてしまうからです。

大企業など大きな組織の一員なら組織に守ってもらえるかもしれませんが、起業したばかりの小さな組織の代表など、誰も守ってくれません。約束を忘れることは、ビジネスにおいて致命的な問題に直結するのです。

事務的なことや細かい作業が苦手

どんなにクリエイティブで刺激に満ちた仕事でも、最低限の事務仕事や細かい作業は必ず必要になります。事業を起こす時には、企画書の作成や役所への届け出も必要ですが、AD/HDの人は、書類作成がとても苦手です。不注意のうえに、既定のフォーマットに従うだけの退屈な作業で、オリジナリティが微塵も発揮できません。むしろ発揮してはいけないのです。

事務作業が苦手

さらに書き終えたものは興味が失せて見返さない。これがケアレスミスを多発させてしまいます。

それでもやっぱり、“起業に向くAD/HD”はいる

AD/HD傾向のある人の中には、クリエイティビティが高く、起業に向いている人が少なからず存在するのは事実です。ここでは、AD/HD傾向の人が「起業」に向くかを考えるためのポイントをいくつか挙げていきたいと思います。

ベースとしての高い能力をもつ(ハイスペックAD/HD)か

AD/HD傾向と能力には、関連性がありません。AD/HDには能力の高い人がいれば、低い人もいますが、起業するにはやはり、知力や記憶力、理解力など、仕事に有益な一定水準の能力、いわゆる「地頭の良さ」が必要になります(以下「ハイスペックAD/HD」)。

地頭の良さ

その能力は、学校の成績や学歴、肩書などでは測れません。衝動性や反骨心などがネックになって、能力が社会に認められないこともあるからです。

認知特性の偏りの程度

極端にAD/HD傾向が高いひとは、起業に向くかどうか、十分に考慮することが必要です。AD/HDの3つの特性のすべてが極端な形で出るなど、日常生活もおぼつかな場合は、相当なハンディキャップを背負うことになるでしょう。

起業するには、周囲の相当手厚いサポートが必要になります。

認知特性の偏り

興味の対象が社会のニーズにマッチしているか

興味を持っている事業の内容が、社会に役立つ新しいサービスやグッズ、ICT(情報通信技術)など、社会で求められる分野なら起業のチャンスはあります。

興味の対象とニーズの一致

その一方で、犯罪や反社会的な傾向を帯びたものはもちろん、社会のニーズにマッチしないものは、事業として成り立たないでしょう。その事業が社会に必要なものか、客観的な視点で判断することが必要です。

まとめ

AD/HD傾向の人は、雇用されて働く、いわゆる“勤め人”としての適正が、高くはないかもしれません。しかし、自分の特性を知り、自分を理解してくれるパートナーと手を組み、良い関係を築いていくことが出来れば、“起業”して成功することも、夢ではありません。むしろ、AD/HD傾向を持つ人に秘められた、大きな力を発揮することができるのではないでしょうか。

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遠藤野ゆり

遠藤野ゆり

法政大学キャリアデザイン学部 准教授。2001年東京大学教育学部卒業、2007年東京大学大学院教育学研究科修了(教育学博士)。その後、2009年山口大学教育学部専任講師、2012年法政大学キャリアデザイン学部専任講師を経て、2013年より現職、現在に至る。専門分野は臨床教育学、研究テーマは「生きづらさを抱える若者の問題」。発達障害や児童虐待、マイノリティなどの問題に現象学的なアプローチをとって迫ります。ハンディキャップを当事者の視点から考えること」と「ハンディキャップを社会で活かすこと」を研究しています。 主著:『虐待された子どもたちの自立』(2009東京大学出版会・単著) 『家族と暮らせない子どもたち』(2011新曜社・共著) 『あたりまえを疑え』(2014新曜社・共著) 『生きづらさを描く質的研究』(2014創元社・共著)

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