AD/HDコラムVol.4 AD/HD傾向のある人と、人に備わる「認知特性以外の要因」との関係

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AD/HDの人が働く上で、実は認知特性以外にも考慮すべき要因(脳の使い方にかかわるもの)がいくつかあります。

以下、わかりやすくするため、対照的な性質を対にして示していきますが、AD/HDの認知特性と同様、どちらのタイプと明確に二分できるわけではありません。ここに記すことはあくまで「傾向」です。どちらの傾向が強くなるかは、時と場所、一緒に仕事をする人など、状況に応じて変わってきますし、両方を高いレベルでバランスよく兼ね備える人もいるのです。ここでは、そうした要因について述べていきます。

遠藤野ゆり准教授
脳の働きにおいて、どちらの傾向がより強く現れるのかで、その人の特性に違いが出てきます。

 

同時処理と継時処理

ある刺激に対して脳が処理をするときに、複数のことを同時に処理することを“同時処理”、一つ一つ順番に処理していくことを“継時処理”といいます。

例えば服のコーディネートは、全体のバランスを直感的に判断して、脳が同時処理を行っています。継時処理で行うと、帽子とニット、ニットとパンツは合うが帽子とパンツのバランスが悪いなど、チグハグな組み合わせになります。一方、段取りを組むような仕事では、継時処理の能力が生かされます。

同時処理と継時処理、どちらがより得意(これを「優位性」と言います)かは人それぞれ。場面に応じて両方を巧みに使い分ける人がいますし、どちらも苦手な人、片方に能力が偏った人もいます。ちなみにハイスペックAD/HDには、同時処理タイプが多いようです。

仕事をするうえでは、この処理のタイプの違いが、しばしばトラブルを引き起こします。

同時処理タイプの人だけで作業する場合には、最終的なゴールにたどりつきさえすればよいので、むしろ仕事の処理は早くなるでしょう。しかし仕事を他人と共有して順序立てておこなうことになれば、パフォーマンスが著しく落ちてしまうことがありえます。

継時処理タイプの人も交えて作業をする場合は、ゴールだけではなく、スケジューリングや手順など、ゴールへの道筋を共有して仕事を進めていくとよいでしょう。

 

全体優位と局所優位

物事を把握する時に、全体像が気になる人は“全体優位”、細かい点に注意が向かう人は“局所優位”というタイプです。前出の同時処理、継時処理と部分的に重なるところがあります。物事を一度に考える同時処理タイプは全体優位という性質に、順番に物事に着目して一つひとつを処理していく継時処理タイプは局所優位につながりやすくなります。

全体の調和を考えて作り上げる仕事、たとえば建築家や作曲家などは、全体優位性が高い人が向いています。しかし、局所優位性が強い場合は、多くの楽器の複数のメロディーを集約する交響曲を作曲するのは非常に困難でしょう。

全体優位性の高い人は、常にゴールが見えているので、他人からは作業の順番がムチャクチャに見えても、仕事をそれなりにこなせるものです。ただし、細部に注意が行き届かないので、仕事が粗く(雑に)なるのが弱点といえるでしょう。

他方、局所優位に偏っている人の場合は、いったん何かの作業にのめりこむと全体に目がいかなくなり、ゴールに向かうことが難しくなります。しかし一つひとつ作業が丁寧なので、細かい部分の作業やチェックは得意です

 

映像思考と言語思考

物事を考えるとき、言葉で考える思考を“言語思考”といいます。一方、映像で考える思考を“映像思考”といいます。

 

あなたはどちらのタイプでしょうか。次の図をスクロールせずに30秒間見て、メモをとらず、しっかり記憶してください。

問題:

  • ウサギはどのあたりにいたでしょうか
  • 画面右側にいた生き物はなんでしょうか
  • 画面中央上側にあったものはなんでしょうか

うまく正解できましたか?

実は、正解かどうかは大した問題ではありません。大事なのは、この図を覚えるときに、どのように覚えたか、です。

  • 「ウサギが画面左側に2羽、カメが右側に3匹、画面中央上部には赤い旗がある」と言葉に置き換えてとらえた人 → 記憶において言語優位の人
  • 図をそのまま画像として記憶に刻み付けた人 → 記憶において映像優位の人

という違いがあります。記憶の方法一つとっても、タイプによって大きく違っているのです。

映像には、一度にたくさんの情報が示されるので、それを記憶する能力は同時処理、全体優位の性質と重なります。従って、同時処理タイプは、映像優位性が高まりやすいし、全体優位性も高まりやすい。これらの特性には親和性があると考えられます。

しかし現代の学校教育は、言語による思考や表現をかなり重視しており、もともとは映像優位でも、言語で思考する訓練を受けることになります。現在の日本では、言語思考の人が全体の8割程度と考えられています。

こうした社会の中で、映像思考優位の人は、学校でも仕事でも何事かを他者に伝える場合に、映像として思い浮かんだことをいちいち言葉に置き換えるという手順を経るので、どうしても反応が遅くなります。結果的に、ハンディキャップを感じる場面が多くなるでしょう。発達障害と診断される人に映像思考タイプが少なくないのは、こうした社会の背景と無関係ではありません。

 

思考や記憶の傾向が仕事にどうかかわるか

こうした要因が、仕事において具体的にどう影響していくのでしょうか。筆者の知人Aさんの事例を紹介しましょう。

Aさんは「発達障害」と医師から診断を受けた、映像思考・全体優位・同時処理というタイプのAD/HDでした。彼があるイベントを思い立ちます。彼の頭にはイベントで行う企画やゲスト、具体的な会場のイメージなどがぱっと一気に浮かんできました。しかし彼はなぜそのイベントが必要なのか、それをどう実現すればいいのか全く説明できません。

周囲の人たちは、Aさんが絶対必要なイベントだと熱く主張するので、その意義もよくわからないまま、彼が思い描いたイメージを実現するために具体的な準備や段取りを進めて奔走しました。蓋を開けてみれば、通常の三分の一という準備期間にもかかわらず、イベントは大成功。そして実際にやってみた後で、本当にそれが必要なイベントだったことを、ようやくスタッフが理解できたのだそうです。

これが起業型ハイスペックAD/HDの働きぶりの一例です。

 

傾向チェックリスト

ここで、今まで述べてきたことを、図表で整理してみましょう。自分がどの傾向にあてはまるのかチェックしておくと、どんな人と、どんなスタイルで働くのが適しているのか傾向と対策とが練りやすいと思います。

得意 時と場合による 苦手
同時処理
継時処理
全体把握
局所把握
映像思考(視覚優位)
言語思考(聴覚優位)

 

まとめ

一言で「AD/HD」あるいは「AD/HD傾向がある」といっても、いくつかのタイプがあります。どのような特性が強く出るのか、逆にどのような特性が目立たないのか。自分のタイプが整理できたら、足りない部分を補う方法を探せばよいのです。その方法とは何か。次の「キャリアデザイン」で具体的に述べていきます。

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